二人だけで外出するのは久し振りだ。家を出る前に行く約束した室内遊技場へゴー。
「本日休館」
諸行無常が世の常。さあさあ、余所へ行きましょう。そうしましょう。はい、わかりました。
こうは行かない。当時もうすぐ3歳児、いっぱしに約束に非常にタイト。
大人にとって時々平凡に感じてしまう日常でも、こどもにとっては何事も新鮮だ。
生きるということに対して真剣に命を懸けている。恐る恐る休館の意味をやんわり伝えた。
車内に鳴り響く絶叫、怒号、嗚咽。飛び散る涙、鼻水。憤怒の表情。異常な眼力。
いやー! やだー! いくー! もー! ぎにゃー! しべりだいー! (滑り台) ママー!
活字にするとかわいいもんですが、言語3割、感情7割。相当の迫力。わたしの尻がすぼんだ。
仮に言語9割、感情1割とした意訳。
「父上、あなたはわたしと交わした約束を破りました。しかもさっき交わしたてほやほやの。
約束は破るためにあるなどと時折耳にしますが、それは阿呆の戯言、屁理屈。
父上、あなたは阿呆ですか?阿呆でないのならそれを証明すべく、
速やかにわたしを室内遊技場へ連れて行け。ASAP。」
しかし休館は休館。大型の車、そこそこのサイズの重機が駐車場に並び、
遊技場施設のメンテナンスをしているらしく、どうしても工事関係者しか入れない。
打開策が必要だ。しかも超急ぎで。何か出ろ。阿呆の脳。いや俺の脳。ノーモア休館。脳よ。
そうだ。"めばえ"だ。めばえしかない。
めばえとは、小学館が刊行する付録付き幼児向け雑誌。
主にアンパンマンとアンパンマンやアンパンマンなど幼児を虜にする要素で満載。
むすめはこの雑誌を甚く気に入っている。
就寝前はアンパンマン魚釣りのページで延々とたこやまぐろを執拗に釣り続ける。
めばえに賭け、泣き声にヤラれながら近所の大型書店へ直行。
書店内幼児本コーナー。そこにめばえ12月号は陳列されていた。
笑顔のむすめ。安堵。厳密に約束は守れなかったが、阿呆のレッテルを免れた。
視界に見慣れない変なものが入り込む。幼児本コーナー奥。白くてでかい何かが動いている。
巨大な白猫だ。
巨大な白猫が二足歩行で体をゆらゆらさせながら幼児と写真を撮っている。
これは幻ではない。やっと笑顔が戻ったむすめが青ざめている。
二足歩行の白猫は幼児の身長のゆうに倍はある。俺の後ろに隠れるむすめ。
よく見たらノンタンだった。たまたま書店のイベント、撮影会をしていたらしい。安堵。
こうして父子は無事笑顔で家に帰ったのでした。めでたしめでたし。
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